今回は、腹膜心膜横隔膜ヘルニアという病気についてお伝えします。
あまり聞きなれない病名かと思いますが、犬・猫の先天性心膜疾患の中では最も多いといわれています。
当院でこの病気の手術を行い、その後、元気に過ごしている猫ちゃんを診察させていただきましたので、この病気について取り上げてみました。
私たち人間も含めて動物の体は、膜や筋肉によって、胸腔・腹腔・心膜腔など…と呼ばれるいくつかのお部屋に区切られています。そのお部屋があるおかげで、それぞれの臓器は本来あるべき場所に収まることができます。
“ヘルニア”というのは、体の組織が正しい位置からはみだした状態を意味しています。
つまり、この“腹膜心膜横隔膜ヘルニア”とは、
胸腔・腹腔・心膜腔を分ける膜に異常が生じ、本来お腹の中にあるべき臓器(胃、小腸、肝臓など…)がはみだし、心膜腔のところに入り込んでしまっている病気です。
原因は、胎児期の発育異常です。腹膜と心膜の交通が残ってしまうために起こります。
症状が伴わない場合もありますが、嘔吐や下痢、食欲不振、体重減少、発咳、呼吸困難などを示すと報告されています。ショックや虚脱を起こしてしまうこともあるので注意が必要です。
先天的な病気なので、症状があれば若い時期にみつかることが多い病気ですが、高齢になっても無症状の場合もあり、レントゲン検査で、たまたま見つかることもあります。
聴診で心音が弱いこと、腹部の触診でお腹の臓器が少ないことなどで見つかる場合もあります。
診断は、レントゲン検査が中心となりますが、エコー検査も併せて、ヘルニアの状態を評価します。
治療は、ヘルニアを起こした臓器をもとの位置に戻して、腹膜と心膜のつながりを閉鎖する外科手術で行います。臓器の癒着が起こっている場合は、位置を戻そうとして剥離すると膜や血管を損傷してしまう危険性もあります。
症状がなく、老齢になってから見つかった場合は、手術を行わなくても良好な場合もあります。
当院で手術を行った猫ちゃんは、現在では良好な経過をたどってくれています。
手術前のレントゲン写真がこちら。
心臓の影が大きく、黒く抜ける肺の部分が狭くなっています。
手術から1か月後のレントゲン写真がこちら。
心臓の影が小さくなって、肺の部分が広くなりました。
横隔膜のラインもしっかり見えるようになって、お腹の臓器も正しい位置に整復されています!
「元気いっぱい遊ぶけど、すぐに疲れる」
「なんだか息切れしやすい」
など、心配しすぎかな?と思われる方もいるかもしれませんが、病気のサインのこともあります。
ぜひ、お気軽にご相談くださいね!